熱力学第一法則と気体の分子運動論を、サルでもわかるように解説します

サルボルト
サルボルト

ようこそ!サルボルトだよ

今回は、熱力学第一法則(ねつりきがくだいいちほうそく)について、徹底的に勉強しよう。

熱力学。

この単元に入った途端、多くの高校生がこう叫ぶんだ。

「\(Q = \Delta U + W\) なのか、\(\Delta U = Q + W\) なのか、どっちがどっちだかわからん!」

「仕事 \(W\) がプラスだったりマイナスだったり、参考書によって言ってることが違うぞ!」

「ボイル・シャルルはわかるけど、断熱変化って何?温度上がるの?下がるの?」

わかる。めちゃくちゃわかる。

熱力学は、「主語」を誰にするかで、式の形がコロコロ変わる、厄介な分野なんだ。

でも、安心してほしい。

今日は、教科書の公式をただ暗記するんじゃなくて、「気体分子という”小人たち”が、箱の中で何をしているのか?」というミクロな視点から、じ〜〜〜っくりと解説していく。

この記事を読み終わる頃には、符号のミスなんてあり得ないレベルで、熱力学の「心」が理解できているはずだ。

少し長い旅になるけど、ついてきてね。これは、物理をマスターするための必須科目だ。

序章:温度の正体は「ダンスの激しさ」

まず、「熱」とか「温度」とかいう言葉の正体を暴いておこう。

空気の入った風船を想像してほしい。

この中には、窒素や酸素といった「気体分子」が、無数に飛び回っている。

彼らは止まっていない。ものすごいスピード(常温で約500m/s!)でビュンビュン飛び回り、壁にバンバンぶつかっている。

ここで、一番大事な事実を伝えるよ。

温度 \(T\) とは、分子の「運動エネルギー」のことである。

そう。温度計が測っているのは、「熱さ」という謎のエネルギーじゃない。

分子たちが、「どれだけ激しく暴れまわっているか(運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\))」の平均値を、人間がわかりやすい数字(℃とかK)に変換しただけのものなんだ。

  • 温度が高い(高温): 分子がメチャクチャ速く飛び回っている(激しいダンス)。
  • 温度が低い(低温): 分子がゆっくり動いている(静かなダンス)。
  • 絶対零度(0K): 分子が完全に止まった状態(ダンス終了)。

これを頭に叩き込んでおいてほしい。

「温度が上がった」と言われたら、「あ、中の小人たちがスピードアップしたんだな」と脳内変換するんだ。

第1章:登場人物紹介(\(U, Q, W\))

熱力学の主役は、3人いる。

この3人の関係性(誰が増えたら誰が減るのか)を描いたのが、「熱力学第一法則」だ。

1. 内部エネルギー \(U\) [J](貯金)

気体が入った箱の中にある、「全エネルギー」のこと。

さっき言った通り、気体分子は飛び回っている。つまり「運動エネルギー」を持っている。

箱の中の、すべての分子の運動エネルギーを「合計」したものが、内部エネルギー \(U\) だ。

単原子分子(ヘリウムとか)の場合、この \(U\) は、温度 \(T\) だけで決まる。

$$U = \frac{3}{2}nRT$$

(\(n\)はモル数、\(R\)は気体定数。係数の \(\frac{3}{2}\) の理由は、記事の最後の「強者向けコーナー」で証明するよ!)

大事なのは、「温度 \(T\) が上がれば、内部エネルギー \(U\) も増える」ということ。直感的だよね。(速く動く=エネルギー増える)

これを、サルボルト流の例えで「貯金」と呼ぼう。

2. 熱量 \(Q\) [J](給料・収入)

これは、外からバーナーで加熱したりして、気体に与えるエネルギーのこと。

「熱を加える」=「分子にお尻ペンペンして、もっと速く動け!とエネルギーを注入する」ことだ。

これを、「給料(収入)」と呼ぼう。外から入ってくるお金だ。

3. 仕事 \(W\) [J](出費・買い物)

ここが一番の鬼門だ。

気体は、閉じ込められていると、外に出たがって壁を押す。

もし、ピストンが動いて、気体が膨らんだら(体積 \(V\) が増えたら)、どうなる?

気体は、自分の力でピストンを「グググッ」と押して動かしたことになる。

物理では、「力を加えて、動かす」ことを「仕事」と言うんだったよね。

つまり、気体が膨らむとき、気体は「(外に対して)仕事をした(\(W_{out}\))」ことになる。

仕事をするには、エネルギーが必要だ。自分のエネルギーを使って、外の世界に影響を与えたんだ。

これを、「出費(買い物)」と呼ぼう。自分の持っているお金(エネルギー)を使ってしまうことだ。

サルボルト
サルボルト

逆に、外から無理やりピストンを押し込まれて、圧縮されたら?

気体は「仕事をされた(\(W_{in}\))」ことになる。これは「お小遣いをもらった」みたいなもんで、エネルギーが増えることになるぞ。

第2章:熱力学第一法則(お財布の法則)

さあ、役者は揃った。

  • \(Q\)(給料): 入ってくるエネルギー
  • \(W_{out}\)(出費): 使っちゃうエネルギー(気体がした仕事)
  • \(\Delta U\)(貯金の変動): 内部エネルギーの変化

この3つの関係、小学生でもわかるよね?

「もらった給料」から「使った出費」を引いた残りが、「貯金の増えた分」だ。

$$(給料)-(出費)=(貯金の変動)$$

これを、物理の記号にするだけ。

$$Q – W_{out} = \Delta U$$

教科書によっては、\(Q\) について解いた形で書かれていることが多い。

$$Q = \Delta U + W_{out}$$

これが、熱力学第一法則だ!

熱力学第一法則(サルボルト式)
\(Q = \Delta U + W_{out}\)
(加えた熱量)=(内部エネルギーの増加)+(気体が外にした仕事)

「入ってきた熱エネルギーは、自分自身の温度上昇(\(\Delta U\))と、外への仕事(\(W_{out}\))に使われる」

この「\(Q = \Delta U + W_{out}\)」の形を、基本として覚えておこう。一番ミスが少ない。

(※ 教科書によっては \(\Delta U = Q + W\) と書いてあることもある。この場合の \(W\) は「仕事をされた(\(W_{in}\))」場合だ。出費じゃなくて「臨時収入」扱いしているわけだね。意味を考えれば同じことだけど、混乱するなら \(W_{out}\) で統一して、「された」ときはマイナスにすればいい!)

第3章:4つの変化とP-Vグラフ

ここからは実践編。

この第一法則 \(Q = \Delta U + W_{out}\) を使って、気体の色々な変化(状態変化)を分析していく。

そのための最強ツールが、P-Vグラフ(縦軸が圧力 \(P\)、横軸が体積 \(V\))だ。

(典型的なP-Vグラフの4つの変化)

1. 定積変化(体積 \(V\) が一定)

ピストンを固定して、動かなくした状態で加熱する。

体積が変わらない(膨らまない)ということは、ピストンを押して動かしてない。

つまり、仕事 \(W_{out} = 0\) だ!

第一法則はこうなる。

$$Q = \Delta U + 0 \quad \to \quad Q = \Delta U$$

「もらった給料(熱)が、全額貯金(温度上昇)に回る」。

だから、定積変化は温度が上がりやすいんだ。

2. 定圧変化(圧力 \(P\) が一定)

ピストンを自由に動けるようにして、加熱する。気体は膨張しながら、圧力は一定に保たれる。

このとき、気体は膨らむから、仕事をする。その大きさは、

$$W_{out} = P \Delta V$$

(仕事=力×距離 \(= (PS) \times \Delta x = P(S\Delta x) = P\Delta V\)。長方形の面積だ!)

第一法則は、

$$Q = \Delta U + P\Delta V$$

「もらった給料の一部を、買い物(膨張)に使って、残りを貯金した」。

定積変化と比べると、仕事に使っちゃったぶん、貯金(温度上昇)は少なめになる。

(ここから、マイヤーの関係式 \(C_p = C_v + R\) が導かれるんだけど、それはまた別の機会に)

3. 等温変化(温度 \(T\) が一定)

温度を一定に保ちながら(例えば、氷水につけながらゆっくり)変化させる。

温度 \(T\) が変わらないということは…?

そう、内部エネルギーの変化 \(\Delta U = 0\) だ!(\(U\)は\(T\)だけで決まるからね)

第一法則は、

$$Q = 0 + W_{out} \quad \to \quad Q = W_{out}$$

「もらった給料を、全額買い物に使った(貯金増減なし)」。

もしくは、「仕事をしたぶんだけ、熱をもらって補給した」とも言える。

P-Vグラフは、ボイルの法則 \(PV = (一定)\) に従うので、反比例の曲線(双曲線)になるよ。

4. 断熱変化(熱の出入り \(Q\) がゼロ)

断熱材で囲ったり、ものすごく素早く動かしたりして、熱の出入りをシャットアウトする。

もちろん、\(Q = 0\) だ。

第一法則は、

$$0 = \Delta U + W_{out} \quad \to \quad \Delta U = -W_{out}$$

これはどういうこと?

気体が膨張して仕事をする(\(W_{out} > 0\))と、\(\Delta U\) はマイナスになる。

つまり、「給料なしで買い物したから、貯金を切り崩した(温度が下がった)」ということだ!

逆に、圧縮されたら(\(W_{out} < 0\))、\(\Delta U\) はプラスになる。

「仕事をされたら、そのぶんエネルギーが溜まって熱くなった」。

自転車の空気入れが熱くなるのは、まさにこれ(断熱圧縮)だね。

サルボルト
サルボルト

なんで断熱圧縮で温度が上がるのか、分子の気持ちで考えてみよう。

迫ってくる壁(ピストン)に向かってボール(分子)を投げると、跳ね返ったボールの速度はアップするよね?(テニスのスマッシュと同じ!)

分子の速度が上がる \(\to\) 運動エネルギーが増える \(\to\) 温度が上がる!

ほら、ちゃんとつじつまが合う!

実践演習:熱サイクルを解こう!

では、実際に問題を解いてみよう。この表を埋められれば、免許皆伝だ。

問題

1molの単原子分子理想気体がある。状態A(\(P_0, V_0, T_0\))からスタートし、以下のサイクルを行った。気体定数を\(R\)とする。

  • 過程1(A \(\to\) B): 定積変化で、圧力を \(2P_0\) にした。
  • 過程2(B \(\to\) C): 定圧変化で、体積を \(2V_0\) にした。
  • 過程3(C \(\to\) A): 直線的に変化させて、元の状態Aに戻した。

各過程における \(Q, \Delta U, W_{out}\) を、\(RT_0\) を用いて求めよ。

下準備:各点の温度を知る

まず、状態方程式 \(PV = nRT\) を使って、各点の温度を \(T_0\) で表そう。

  • 状態A: \(P_0 V_0 = RT_0\) (これが基準)
  • 状態B: \((2P_0) V_0 = R T_B \quad \to \quad T_B = 2T_0\)
  • 状態C: \((2P_0) (2V_0) = R T_C \quad \to \quad T_C = 4T_0\)

これで準備完了だ。

解説

解答・解説

過程1(A \(\to\) B):定積変化

  • \(W_{A\to B}\): 体積変化なし \(\to\) 0
  • \(\Delta U_{A\to B}\): \(\frac{3}{2}R(T_B – T_0) = \frac{3}{2}R(2T_0 – T_0) = \frac{3}{2}RT_0\)
  • \(Q_{A\to B}\): 第一法則より \(\Delta U + W = \frac{3}{2}RT_0 + 0 = \frac{3}{2}RT_0\)

過程2(B \(\to\) C):定圧変化

  • \(W_{B\to C}\): \(P\Delta V = (2P_0)(2V_0 – V_0) = 2P_0 V_0 = 2RT_0\)
  • \(\Delta U_{B\to C}\): \(\frac{3}{2}R(T_C – T_B) = \frac{3}{2}R(4T_0 – 2T_0) = 3RT_0\)
  • \(Q_{B\to C}\): \(3RT_0 + 2RT_0 = 5RT_0\)

過程3(C \(\to\) A):圧縮

  • \(W_{C\to A}\): P-Vグラフの面積(台形)だが、体積が減っているので負。
    面積 \(= \frac{1}{2}(P_0 + 2P_0)(V_0 – 2V_0) = -\frac{3}{2}P_0 V_0 = -\frac{3}{2}RT_0\)
  • \(\Delta U_{C\to A}\): \(\frac{3}{2}R(T_A – T_C) = \frac{3}{2}R(T_0 – 4T_0) = -\frac{9}{2}RT_0\)
  • \(Q_{C\to A}\): \(-\frac{9}{2}RT_0 + (-\frac{3}{2}RT_0) = -6RT_0\) (熱を放出した)

確かめ算(1周):
\(\Delta U_{total} = \frac{3}{2} + 3 – \frac{9}{2} = 0\) (行って帰ってこれた!)
正解!

物理強者向け:気体分子運動論(ミクロな導出)

(ここからは、ハイレベルな方には敬語を使います)

なぜ、\(U = \frac{3}{2}nRT\) なのか? なぜ、温度は「運動エネルギー」なのか?
それを、ニュートン力学(運動方程式)から完全に導き出しましょう。

一辺 \(L\) の立方体の箱の中に、質量 \(m\) の気体分子が \(N\) 個入っているとします。

ある1個の分子が、速度 \(v_x\) で壁に衝突し、弾性衝突して \(-v_x\) で跳ね返ったとします。

このとき、分子が受けた力積の大きさは \(2mv_x\) です。
逆に、壁は \(2mv_x\) の力積を受け取ります。

この分子は、往復距離 \(2L\) を移動するごとに1回壁に衝突するので、1秒間に衝突する回数は \(\frac{v_x}{2L}\) 回です。

よって、壁がこの1個の分子から受ける平均の力 \(f\) は、
$$f = (\text{1回の力積}) \times (\text{1秒間の回数}) = 2mv_x \times \frac{v_x}{2L} = \frac{mv_x^2}{L}$$

箱の中には \(N\) 個の分子がいます。それぞれの速度の成分はバラバラですが、平均値を \(\overline{v_x^2}\) とすると、壁全体が受ける力 \(F\) は、
$$F = N \times \frac{m\overline{v_x^2}}{L}$$

圧力 \(P\) は、力 \(F\) を面積 \(L^2\) で割ったものなので、
$$P = \frac{F}{L^2} = \frac{N m \overline{v_x^2}}{L^3} = \frac{N m \overline{v_x^2}}{V}$$

ここで、空間は等方的なので、\(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\) であり、全速度の二乗平均 \(\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2} = 3\overline{v_x^2}\) が成り立ちます。
よって、\(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) を代入すると、

$$P = \frac{1}{3} \frac{Nm\overline{v^2}}{V}$$

変形して、\(PV = \frac{2}{3} N \left( \frac{1}{2}m\overline{v^2} \right)\)

これを、理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) と比較します。(\(N = n N_A\) アボガドロ数)

$$nRT = \frac{2}{3} n N_A \left( \frac{1}{2}m\overline{v^2} \right)$$

ここから、分子1個あたりの平均運動エネルギー \(\bar{K}\) が求まります。

$$\bar{K} = \frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2} \frac{R}{N_A} T = \frac{3}{2} k_B T$$

(\(k_B\) はボルツマン定数)。まさに、「温度 \(T\) とは運動エネルギーである」ことが証明されました。

そして、気体全体(\(n\) モル)の内部エネルギー \(U\) は、これを全分子数 \(N\) 倍したものです。

$$U = N \times \bar{K} = (n N_A) \times \frac{3}{2} \frac{R}{N_A} T = \frac{3}{2} nRT$$

こうして、\(U = \frac{3}{2}nRT\) が、ニュートンの運動方程式から導かれました。感動的ですね。

おわりに

熱力学第一法則、どうだったかな?

ややこしい式変形も、「お金(エネルギー)の貸し借り」だと思えば、当たり前のことしか言っていない。

迷ったら、こうつぶやこう。

「もらった給料(Q)で、買い物(W)をして、残りを貯金(\(\Delta U\))する」

このイメージさえあれば、熱力学はもうキミの得意分野だ!

それでは次の記事で!

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