
ようこそ!サルボルトだよ
今回は、電流の正体とオームの法則(自由電子モデル)について、徹底的に勉強しよう。
中学校で習ったオームの法則 \(V=RI\)。
「電圧をかければ電流が流れる。比例定数が抵抗だ」
でも、高校物理では、もっと深いところまで潜る。
「そもそも、なんで電圧をかけると電流が流れるの?」
「抵抗 \(R\) って、ミクロな世界では何が起きているの?」
「ジュール熱って、どこから湧いてくるの?」
そして、入試では、この「ミクロな仕組み」をイチから計算させる問題が、非常によく出るんだ。
「\(I = envS\)? \(v\) って何?」
「\(ma = eE\) で加速するのに、なんで等速運動みたいに扱うの?」
こんな疑問を持っているキミ。
今日は、導線の中を走る電子くんたちの「過酷な障害物競走(パチンコ台)」の様子をイメージしながら、オームの法則を数式で「再発明」してみよう!
序章:電子はカタツムリより遅い!?
まず、衝撃的な事実を伝えよう。
スイッチを入れると、電球は「一瞬」でつくよね。
だから、導線の中の電子は、光の速さくらいものすごいスピードで走っていると思っている人が多い。
でも、実際に計算してみると…
電子が進む速さは、なんと「秒速 数ミリメートル」しかないんだ。

カタツムリ級の遅さだ!
「えっ、じゃあなんで電気はすぐつくの?」
それは、「ところてん」と同じだ。
ホース(導線)の中には、最初から水(電子)がパンパンに詰まっている。
手元で水を「グイッ」と押し込むと、その「押された!」という圧力(電場)は一瞬で伝わって、遠くの出口から水が「トコロテン式」に押し出される。
伝わるのは「電子そのもの」じゃなくて、「動け!という命令(電場)」なんだ。命令は光速で伝わるけど、実際に動く電子たちはノロノロ運転なんだよ。
第1章:電流の定義式 \(I = envS\)
まず、「電流 \(I\) [A]」とは何か、定義を確認しよう。
電流 \(I\) の定義:
ある断面を、「1秒間に通過する電気量(電荷の総量)」のこと。
これを、電子の動きを使って式にしてみよう。
断面積 \(S\) [m²] の導線の中を、電子(電気量 \(-e\) [C])が、速さ \(v\) [m/s] で流れているとする。
ここで、大事な設定。
導線の中には、電子がウジャウジャいる。その密度を「電子密度 \(n\) [個/m³]」(1立方メートルあたり何個いるか)としよう。
「1秒間」にゴールライン(断面)を通過できる電子は、どの範囲にいるやつらだろう?
電子の速さは \(v\) だから、ゴール手前 \(v\) [m] 以内にいる電子なら、1秒以内にゴールできるよね。

この「ゴール手前 \(v\) [m] 分の導線」の体積は、
$$(\text{体積}) = (\text{断面積}) \times (\text{長さ}) = S \times v = vS \text{ [m³]}$$
この中にいる電子の個数は、
$$(\text{個数}) = (\text{密度}) \times (\text{体積}) = n \times vS = nvS \text{ [個]}$$
電子1個の電気量は \(e\)(大きさだけ考える)だから、合計の電気量(=電流 \(I\))は、
$$I = e \times (\text{個数}) = e \times nvS$$
並べ替えて、
$$I = envS$$
これが、電流の正体を暴く最初の公式だ!
「イイ(\(e\))ニ(\(n\))ブ(\(v\))ス(\(S\))」とか語呂合わせで覚えるけど、意味を考えれば当たり前だよね。
第2章:ミクロな障害物競走(ドルーデモデル)
次に、この「速さ \(v\)」がどうやって決まるのかを考えよう。
導線に電圧 \(V\) をかけると、中の電子は電気的な力(静電気力)を受けて加速する。
じゃあ、どんどん加速して、光の速さになっちゃうの?
違う。
導線の中には、動かない「陽イオン(金属原子の本体)」が邪魔者として陣取っている。
電子は、加速してもすぐにこの陽イオンに「ガチン!」と衝突して、ブレーキがかかるんだ。
イメージは「パチンコ台」だ。
-
- 重力(電圧)で加速する。
- 釘(陽イオン)にガチンと当たって、速度を失う(あるいは方向がランダムになる)。
- また加速する。
- またガチンと当たる。
</ul class=”wp-block-list”>
これを繰り返すことで、電子は「加速し続ける」のではなく、「ある一定の平均速度 \(v\)(ドリフト速度)」で、ノロノロと進んでいくことになる。
運動方程式を立てよう
長さ \(l\) の導線に、電圧 \(V\) をかけた。
このとき、導線内の電場(坂道の急さ)は \(E = V/l\) だ。
電子(質量 \(m\)、電荷 \(-e\))が受ける力 \(F\) は、\(F = eE\)(大きさ)。
運動方程式 \(ma = F\) より、
$$m a = eE \quad \to \quad a = \frac{eE}{m}$$
電子は、この加速度 \(a\) で加速する。
ここで、電子は平均して時間 \(t\) 秒間だけ加速して、陽イオンに衝突するとしよう。
(衝突直後の速度はゼロになると仮定するモデルで考えるよ)
スタート(速度0)から、衝突直前(時間 \(t\) 後)の最大速度 \(v_{max}\) は、
$$v_{max} = at = \frac{eE}{m}t$$
電子の速度は、0から \(v_{max}\) までギザギザと変化する。
だから、平均の速度 \(\bar{v}\) は、その半分(中点)だ。
$$\bar{v} = \frac{0 + v_{max}}{2} = \frac{eE t}{2m}$$
(※教科書によっては、\(kv = eE\) という空気抵抗モデルで解く場合もあるけど、この「衝突モデル」が入試では一番よく出る!)
この平均速度 \(\bar{v}\) こそが、さっきの \(I = envS\) の \(v\) なんだ!
$$v = \frac{eE t}{2m}$$
この式に、\(E = V/l\) を代入しておこう。
$$v = \frac{e V t}{2ml}$$
第3章:オームの法則の導出(合体!)
さあ、すべてのパーツが揃った。
電流の式 \(I = envS\) に、今の速度 \(v\) の式を代入して、オームの法則 \(V=RI\) の形に持っていこう。
$$I = enS \times \left( \frac{e V t}{2ml} \right)$$
これを整理して、\(V =\) の形に変形するぞ。
$$I = \frac{n e^2 S t}{2ml} V$$
逆数にして、
$$V = \left( \frac{2m}{n e^2 t} \cdot \frac{l}{S} \right) I$$
見たか! \(V = (\text{定数}) \times I\) の形になった!
これが「オームの法則」の正体だ。
そして、カッコの中身が「抵抗 \(R\)」の正体だ。
$$R = \frac{2m}{n e^2 t} \cdot \frac{l}{S}$$
よく見る抵抗の公式 \(R = \rho \frac{l}{S}\) と見比べてみよう。
抵抗率 \(\rho\) の正体が見えてきたね。
$$\rho = \frac{2m}{n e^2 t}$$
この式をじっくり味わってみよう。
-
-
- \(m\)(電子の質量)が大きい \(\to\) 加速しにくい \(\to\) 抵抗率 \(\rho\) 大(納得!)
- \(n\)(電子密度)が大きい \(\to\) 運び手が多い \(\to\) 抵抗率 \(\rho\) 小(納得!)
- \(t\)(衝突までの時間)が長い \(\to\) 長く加速できる \(\to\) 速くなる \(\to\) 抵抗率 \(\rho\) 小(納得!)
</ul class=”wp-block-list”>
-
完璧だ。数式とイメージが完全に一致した。
第4章:ジュール熱の正体
最後に、「熱」の話。
電子は電場から仕事をもらって、運動エネルギーを増やす。
でも、陽イオンに「ガチン!」と衝突すると、その運動エネルギーを失ってしまう(速度がリセットされる)。
失われたエネルギーはどこへ行く?
そう、陽イオン(原子)を揺らすエネルギーに変わるんだ。
原子が激しく揺れる \(\to\) 温度が上がる。
これが「ジュール熱」の正体だ!
1回の衝突で失うエネルギーは、衝突直前の運動エネルギー \(K_{max} = \frac{1}{2}m v_{max}^2\) だ。
これが、無数の電子で、毎秒何億回も繰り返される。
計算すると、ちゃんと \(P = IV\) (1秒あたりの発熱量)の式が出てくるんだ。感動的だろ?
物理強者向け:緩和時間と量子論への入り口
(ここからは、ハイレベルな方には敬語を使います)
今回紹介したのは「ドルーデモデル(古典的自由電子論)」と呼ばれるモデルです。
ここで登場した「衝突までの平均時間 \(t\)」は、専門的には「緩和時間(relaxation time)\(\tau\)」と呼ばれます。
導電率(電気伝導度)\(\sigma = 1/\rho\) を用いて、オームの法則をベクトル形式(微分形)で書くと、
$$\vec{j} = \sigma \vec{E}$$
(\(\vec{j}\) は電流密度ベクトル、\(\vec{E}\) は電場ベクトル)
となり、\(\sigma = \frac{n e^2 \tau}{m}\)(係数2の違いは平均の取り方による)が得られます。
しかし、この古典モデルには限界があります。
例えば、金属の抵抗率は温度 \(T\) に比例しますが、古典論では電子の速度 \(v \propto \sqrt{T}\) より \(t \propto 1/\sqrt{T}\) となり、抵抗率 \(\rho \propto \sqrt{T}\) となって実験事実と食い違います。
これを解決したのが「量子力学」です。
量子論(ゾンマーフェルト・モデル)では、電子は「フェルミ面」付近の、光速に近い猛スピード(フェルミ速度 \(v_F\))で飛び回っているものだけが電気伝導に寄与すると考えます。
この \(v_F\) は温度によらずほぼ一定ですが、温度が上がると原子核の振動が激しくなり、衝突頻度が上がって \(\tau\) が短くなるため、抵抗が増えるのです。
大学に行くと、この「本当のオームの法則」に出会うことができますよ。
おわりに
オームの法則の正体、どうだったかな?
まとめ:
1. 電流の定義式:\(I = envS\)(イイニブス)。
2. 抵抗の正体:電子が陽イオンに衝突して減速すること(パチンコ台)。
3. 運動方程式 \(ma=eE\) と、等加速度運動の式から \(v = \frac{eEt}{2m}\) を導く。
4. 合体させて \(V=RI\) を証明完了!
この導出過程は、そのまま入試問題の「穴埋め」として出ることが多い。
丸暗記じゃなくて、自分でストーリーを描けるようにしておこう!
それでは次の記事で!


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