
ようこそ!サルボルトだよ
今回は、原子モデルとボーアの量子条件について、徹底的に勉強しよう。
原子分野の計算問題といえば、ほぼこれだ。
「水素原子のエネルギー準位 \(E_n\) を求めよ」
「リュードベリ定数 \(R\) を物理定数で表せ」
「バルマー系列の最短波長は?」
式が複雑で、計算が面倒くさそうに見えるよね。
でも実は、ここに出てくるのは「円運動の物理(力学)」と「波の物理(波動)」の、ただの復習なんだ。
今日は、ボーアという天才物理学者が、どうやって「古典物理学の崩壊」を救い、原子の中身を解き明かしたのか。
そのドラマチックなストーリーと、計算の手順を、サルでもわかるように解説するよ!
序章:原子が潰れちゃう!?(ラザフォードの苦悩)
昔、ラザフォードという人が、「原子というのは、真ん中にプラスの原子核があって、その周りをマイナスの電子が回っているんだ(惑星モデル)」と発見した。
「太陽系みたいでカッコイイ!」とみんな思ったけど、すぐに致命的な欠陥が見つかった。
電磁気学の法則によると、「電荷を持った粒(電子)が、グルグル回る(加速度運動する)と、光(電磁波)を出してエネルギーを失う」という絶対のルールがある。
もし電子が光を出してエネルギーを失ったら?
電子はスピードダウンして、遠心力を失い、あっという間に原子核に吸い寄せられて「墜落」してしまう!

計算では、原子はわずか \(10^{-10}\) 秒で消滅することになる。
でも、現実の世界は消滅していない。僕らの体もスマホも、原子でできている。
「なぜ、原子は潰れないんだ!?」
物理学の常識が、ミクロの世界では通用しなかったんだ。
第1章:ボーアの大胆な「仮説」
ここで登場したのが、ニールス・ボーアだ。
彼は、悩みぬいた末に、とんでもないことを言い出した。
「電子は『波』でもあるんじゃないか?」
(後にド・ブロイが「物質波」として定式化したけど、ボーアのアイデアが先駆けだ)
もし電子が「波」なら、軌道の上を「波」として進むことになる。
円軌道を一周して戻ってきたとき、波の「山と山」がズレていたらどうなる?
干渉して、波は消えてしまう(自分自身を打ち消してしまう)。
そんな軌道には、電子は存在できない。
逆に、一周して戻ってきたとき、波がピッタリつながったら?
波は生き残り、安定して存在できる!

これがボーアの第一の仮説、「量子条件(りょうしじょうけん)」だ。
量子条件:
円周の長さ \(2\pi r\) が、電子の波長 \(\lambda\) の「整数倍」になるときだけ、電子は安定して回れる(定常状態)。
$$2\pi r = n \lambda \quad (n = 1, 2, 3 \dots)$$
ここで、電子の波長 \(\lambda\) は、ド・ブロイ波の公式 \(\lambda = \frac{h}{mv}\) (\(h\)はプランク定数、\(mv\)は運動量)で与えられる。
これを代入すると、
$$2\pi r = n \frac{h}{mv} \quad \to \quad mvr = n \frac{h}{2\pi}$$
この式が、入試で使う「量子条件」の式だ!
第2章:水素原子の軌道半径 \(r_n\) を求めろ!
さあ、いよいよ計算だ。水素原子(真ん中に陽子 \(+e\)、周りに電子 \(-e\))を考えよう。
使う武器は2つだけ。
- 運動方程式(力学):
円運動の向心力 \(ma = F\) の正体は、「クーロン力(静電気力)」だ。
$$m \frac{v^2}{r} = k \frac{e^2}{r^2} \quad \cdots ①$$ - 量子条件(ボーアの仮説):
$$2\pi r = n \frac{h}{mv} \quad \cdots ②$$
この2つの式から、未知数である「速さ \(v\)」と「半径 \(r\)」を求める連立方程式だ。
まず、②の式を \(v =\) の形にする。
$$v = \frac{nh}{2\pi mr}$$
これを、①の式に代入して \(v\) を消去する。
$$\frac{m}{r} \left( \frac{nh}{2\pi mr} \right)^2 = k \frac{e^2}{r^2}$$
$$\frac{m}{r} \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m^2 r^2} = \frac{k e^2}{r^2}$$
両辺の \(r^2\) を消して、整理すると…(自分で手を動かしてみて!)
$$r_n = \frac{h^2}{4\pi^2 k m e^2} \cdot n^2$$
ものすごい定数のカタマリが出てきたけど、大事なのは最後だ。
「半径 \(r_n\) は、\(n^2\) に比例する!」
\(n=1\) のときが一番内側(基底状態)。\(n=2, 3…\) となるにつれて、半径は \(4\)倍、\(9\)倍… と、とびとびの値をとって広がっていくんだ。
第3章:エネルギー準位 \(E_n\) とスペクトル
次に、電子が持っている「全エネルギー \(E\)」を計算しよう。
$$E = (\text{運動エネルギー } K) + (\text{位置エネルギー } U)$$
$$E = \frac{1}{2}mv^2 + \left( -k\frac{e^2}{r} \right)$$
(万有引力と同じで、クーロン力の位置エネルギーもマイナスだ!)
ここで、さっきの運動方程式① \(m \frac{v^2}{r} = k \frac{e^2}{r^2}\) を使うと、
\(mv^2 = k \frac{e^2}{r}\) だから、運動エネルギーは \(K = \frac{1}{2} k \frac{e^2}{r}\) になる。
すると、全エネルギーは、
$$E = \frac{1}{2} k \frac{e^2}{r} – k \frac{e^2}{r} = -\frac{1}{2} k \frac{e^2}{r}$$
(運動エネルギーは、位置エネルギーの「絶対値の半分」なんだ。これも万有引力と同じ!)
ここに、さっき求めた \(r_n\) を代入すると…
$$E_n = – \frac{2\pi^2 k^2 m e^4}{h^2} \cdot \frac{1}{n^2}$$
これまたすごい定数だけど、大事なのは、
「エネルギー \(E_n\) は、\(-\frac{1}{n^2}\) に比例する!」
\(n\) が小さい(内側)ほど、マイナスの値がデカイ(より深い穴の中にいる=安定している)。
\(n\) が大きい(外側)ほど、ゼロに近づく(エネルギーが高い)。
光の放出(振動数条件)
電子が、高いエネルギーの軌道(\(E_{high}\), \(n\)大)から、低いエネルギーの軌道(\(E_{low}\), \(n\)小)へ「転落」するとき。
余ったエネルギーを、「光(光子)」として吐き出す。
その光のエネルギー \(h\nu\) は、そのまんまエネルギーの差だ。
$$h\nu = E_{high} – E_{low}$$
これを変形して、波長 \(\lambda\) の式(\(1/\lambda = \dots\))にすると、実験で観測されていた「リュードベリの式」と完全に一致したんだ!ボーアの大勝利だ。
スペクトル系列の覚え方
どこに落ちるか?で名前が決まる。
1. ライマン系列: \(n=1\) に落ちる。(落差がデカイ \(\to\) エネルギー大 \(\to\) 紫外線)
2. バルマー系列: \(n=2\) に落ちる。(そこそこ \(\to\) 可視光線)
3. パッシェン系列: \(n=3\) に落ちる。(小さい \(\to\) 赤外線)
物理強者向け:ド・ブロイ波からシュレーディンガーへ
(ここからは、ハイレベルな方には敬語を使います)
ボーアの量子条件 \(2\pi r = n\lambda\) は、「電子を波とみなしたときの定常波条件」として直感的に理解できます。
しかし、なぜ電子が波の性質を持つのでしょうか?
これは後に、ハイゼンベルクの「不確定性原理」や、シュレーディンガー方程式による「波動関数 \(\psi\)」の概念へと発展します。
シュレーディンガー方程式を解くと、電子は「軌道(orbit)」という線の上を回っているのではなく、「軌道(orbital)」という雲のような確率分布として存在していることがわかります。
ボーアの求めた半径 \(r_n\) は、実はこの確率雲が最も濃くなる位置(期待値)と一致しています。
そして、ボーアの求めたエネルギー準位 \(E_n\) は、シュレーディンガー方程式の固有値として、全く同じ値が導出されます。
ボーアモデルは、古典力学(粒子のイメージ)と量子力学(波のイメージ)をつなぐ、物理学史上最も重要な架け橋だったのです。
おわりに
原子モデル、どうだったかな?
計算は面倒だけど、やってることは単純だ。
攻略手順:
1. 力のつり合い(運動方程式): \(m \frac{v^2}{r} = k \frac{e^2}{r^2}\)
2. 量子条件(波がつながる): \(2\pi r = n \frac{h}{mv}\)
この2つを連立して、\(v\) と \(r\) を出すだけ!
これを自力で導出できれば、どんな原子の問題が出ても怖くないぞ!
それでは次の記事で!

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